或るレールを渡る

そして通り過ぎて行く

もし浦島太郎が嫉妬深い性格だったら 「うらやまたろう」

むかしむかしあるところに、うらやまたろうという青年がおりました。

ある日、うらやまたろうは、浜辺で一匹の亀が子供たちにいじめられているのを見つけました。

自分の心の中にある亀への少しの優越感を心の奥底へと追いやり、「これは亀をただ助けてやるだけなんだ」と自分に言い聞かせ、うらやまたろうは亀を助けてあげることにしました。

助けてあげた亀は、そのお礼に竜宮城へ招待しましょうと言いました。

うらやまたろうは、さっき助けてあげた亀が実は自分より上の立場の存在なのではないかという不安、そして、見知らぬ場所へさっき会ったばかりの爬虫類だけが知り合いという状況で行くことに気だるさを感じ、「こんなんなら家でいいとも見てたい」と思いつつも、亀のお礼を無下に断ることもできず、着いていくことにしました。

竜宮城には、とてお美しい姫がおり、そのほかにもたくさんの美人たちがうらやまたろうをもてなしてくれました。

うらやまたろうはとても良い気持ちになり、女性たちに、自分の過去の武勇伝を一通り自慢し、出された魚料理を食べながら「やっぱり魚はとれたてに限るよ。よくスーパーとかで売ってる刺身あるじゃん。あれはとても食べれたものじゃないね」とか言ったり、自分が亀を助けてあげたエピソードを3回くらい繰り返したりしました。

しばらくするとうらやまたろうは、隣のテーブルでさきほど助けた亀が女性たちと話しているのが目に入りました。

うらやまたろうは、女性たちが、自分と話している時よりも亀と話しているときの方が楽しそうだと感じました。

その中には、さっきまで話していたうらやまたろうがお気に入りの子もいました。

「あの子、自分に見せなかった笑顔をあの爬虫類には見せている」うらやまたろうは、亀のことをとてもうらやましく思いました。

時間が経つにつれ、亀への嫉妬心はつのるばかりで、うらやまたろうは、「あの爬虫類の野郎、いつかスッポン鍋にしてやる」と思わない日はありませんでした。

そして、「やっぱりこんなとこ来るんじゃなかった」と思いました。

月日がたち、うらやまたろうは姫に「そろそろ村に帰られてはいかがでしょうか」と言われました。

うらやまたろうは、「きっと自分は姫に嫌われてしまったから帰るように誘導されているんだ。結局あの爬虫類と自分は住む世界が違う種族だったんだ」と、亀へのうらやましさで頭の中がいっぱいになりました。

帰り支度をしていると、姫は「村に帰ってもし困ったことがあったらこの玉手箱を開けてください」と言って、うらやまたろうに玉手箱を渡しました。

うらやまたろうは、姫が自分にプレゼントをくれたことを嬉しく思いましたが、亀への嫉妬心で頭の中がいっぱいになりテンションが何段階か下がっていたので「あぁ、ありがとうございます」とボソボソ言って受け取る形になってしまいました。

うらやまたろうは帰り道「あぁ、なんであの時もっと笑顔で受け取ることができなかったんだろう」と、もう終わっていることに対してずっと一人脳内反省会をしていました。

うらやまたろうが地上に戻ると、村の様子がすっかり変わっていました。

うらやまたろうが過ごしている時間の間に、地上では何十年もたっていたのです。

うらやまたろうは、同じ時間を過ごして同じように年を重ねていった同級生たち全員をうらやましく思いました。

あんな風に亀に嫉妬して暮らしているくらいなら、みんなと同じように生きていたかったと思いました。

そして、姫にもらった玉手箱を思い出し、ふたを開けると中から白い煙がもくもく出て、白い髭のおじいさんになってしまいました。

うらやまたろうは、現代の若者たちの若さをうらやましく思い、その妬みから「最近の若いやつは全然だめだな。俺がお前くらいのころは……」と、自分が亀を助けたエピソードをことあるごとに話し、みんなに鬱陶しがられ、会社の20代社員には裏で「亀仙人」と呼ばれておりましたとさ。

 

おしまい